【LIFESTYLE RENOVATION】インタビュー / 高橋夫妻・前半
あなたはリノベーションという言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
ブルックリンスタイル、北欧デザイン、モダンテイスト。
最近の見た目のかっこよさや雰囲気を追い求めるリノベーションは、この言葉自体をパッケージのように型に当てはめ、張りぼてのように無機質な存在にしてしまったと感じます。
本来リノベーションはラテン語で「再び新しい状態になる」という意味。単なる住宅の改修だけではなく、そこに住む人の暮らしや人生が豊かになり、新たに文化を築き始めることが本来あるべきリノベーションなのではとFIELDGARAGEでは考えています。
そして住環境や自身の働き方に再び向き合うことで人生がアップデートされ、人は本当の意味での豊かな生活が送れるのではないでしょうか?
「LIFESTYLE RENOVATION」では、このように既存の形にとらわれない新しいスタイルの衣食住を実践している人たちにスポットライトをあて、彼らが暮らし方や働き方で何を大切にしているのかをインタビューすることで、人生のリノベーションとは何か?を考えるインタビューシリーズです。
千葉県長生町に古民家を改装した「芳泉茶寮」という場所があります。
丁寧に作られた点心と中国茶が楽しめる茶房や料理教室、コンサート、古民家改修講座など、その土地に古くからある風土や文化、人の営みを汲み取る形でこの場所を再生し続けている夫妻、高橋信博さん・裕子さんに会いに行き、これまでのお二人の暮らしから今の暮らしに至るまで、そして今の暮らしで大切にしていることについてインタビューをしてきました。
ロンドン駐在中に学んだ文化的な田舎暮らし
ここに移住する前はもともと国際弁護士だった信博さん。
お仕事で世界各地に駐在後帰国し、四谷で購入したマンションに暮らしていたとお聞きしました。世間一般に羨ましがれるような華やかな暮らしから、なぜ千葉の田舎に引っ越すことを決めたのですか?
一番の影響はロンドンで過ごした2年間が影響していると思います。その時僕は弁護士として駆け出しで、限られた収入のなか、2人でロンドン市内にある小さなタウンハウスに暮らしていました。
毎週、週末になると物価が高いロンドン市内から抜け出しては、郊外のガーデンセンターにいき、併設されているカフェでマグカップに入った紅茶とスコーンを食べて過ごすという質素だけれども豊かな時間を過ごすことを楽しんでいました。
それでもきっと都心に住むのが良いという日本の暮らしからの固定概念で過ごしていたある時、弁護士事務所の上司から「週末にうちでパーティーをするからおいで」とお誘いがありました。
頂いていた住所には番地がなく、どうやって家を特定したらいいのかわからないままとりあえず向かってみると、地域一帯がその人が持っている土地だったんですよ。上司の奥さんにどこから来たのかと尋ねられて「ロンドンから来ました。」と答えると、「ロンドンの限られた小さな空間で生きてるなんて、なんてかわいそうなの。」と言われ、衝撃を受けました。
またある時旅行先でタクシーに乗った時、運転手の方に「ロンドンは何もないところだろう?田舎で楽しんで行きなさい。」と言われ、とても驚いたという経験もありました。
イギリス人には、新鮮な野菜、美味しい空気、豊かな水がない都会の生活は味気なく、豊かな暮らしができる環境が揃っている田舎のほうが「文化的な暮らし」という捉え方があり、これは今まで私たちが当たり前のように思っていた「田舎は何もなくて暮らし辛い」という概念とは180度異なるもので、ロンドンでの生活の間に、豊かな暮らしに対する価値観がすっかり変わってしまいました。
この古民家に完全に引っ越して2年。
暮らしてみたら、都会よりも田舎の方がはるかに豊かな生活を送れているということが身にしみてわかります。東京で料理教室をしていた時は、地産地消がいいんだと来た人に話していたけれど、こちらではそれが当たり前。
お米も野菜も、どこの地域に住んでいる誰なのかまで知っている生活をしていると、生産者の写真を並べて食材を販売している都会のスーパーで買い物をすると、今自分たちが恵まれた環境で暮らしているということを改めて実感します。
外食にしたって車で30分も走れば美味しいフレンチやイタリアンのお店があります。地元の美味しい食材を使ったご飯を食べると、本当の意味での豊かな暮らしを享受できます。
関わる人がいてこそ豊かな暮らしが生まれる
野菜を作る人がいて、お米を作る人がいる。
各々の分野にプロフェッショナルな人たちが近くにいて、その人に任せれば大丈夫という安心感やつながりが、私たちが考える豊かな生き方です。それぞれが、自分の好きなこと、得意なこと、自然とできること、を持ち寄って、助け合いながら生きていけたらいいな、と考えています。
その分野に情熱を持って作っている人から食材を購入し、その食材を使って私は情熱を持って料理をして、それを食べてもらう。一人ひとりにある役割を大切に、お互いがいるからこそ享受できる豊かさを感謝とともに受け取りながら、そして、近所に住む人たちと濃密な人間関係を築きながら生きていくことのほうが私たちが求めている生き方なのだなと感じています。
この家を購入する前に、別の山の中にある家も検討していました。
そこは静かで何もなく、自分たちで自給自足をしていくにはとてもいい環境でしたが、私たちだけで全てを完結させるために常に頑張り続ける隙がない自給自足の暮らしより、隙があるからこそみんなで助け合って生きていく、今の里山くらしが私たちには合っていると考え、この古民家に決めました。
仲間が周りにいることはとても幸せ。自分で麹を作ってお味噌を作るという生活をしてもいいけど、麹に命をかけて生きている人にお金を払って麹を作ってもらったり、美味しいお米を作る人からお米を購入する。
田舎は住んでいる人が少ないから、お互いに頼りあって経済を循環させて生きていくことが必要だと考えています。麹を買う人たちがいなくなってしまったら麹屋さんがなくなってしまうかもしれない。それではそこから毎年麹を購入して味噌を作っている僕たちの生活が困るのです。
お互いに頼りあうことで豊かな経済を結んでいく。それが本来の暮らしのあるべき姿じゃないかな。
裕子さんは赤坂という東京のど真ん中出身ですが、都会の暮らしが恋しくならないですか?
元々東京出身だから東京を嫌いになることはないですが、住まなくてもいいかなとは感じています。東京は色や音や人など外部からの刺激から、目についたものが欲しくなって消費行動に走ってしまい、食事一つにしてもむやみやたらに食べたくなってしまう。
でも田舎にいると精神的な豊かさがあるから、この何もない開かれた空間で、ご飯とお味噌汁があれば幸せ。都会にいると外からの刺激によって心の動作が起こって刺激を欲してしまいますが、 田舎は外部の刺激が少ないから、自分の中に生まれる衝動やクリエイティビティそのままに、自分のやりたいことをやっている感じがします。
例えば都会では、外からの情報からあれが食べたいこれが食べたいと次々と目移りしてしまうけれど、田舎だと、あれがあるからあれを作ろう、これを作ろうと考えるようになりました。そうしているうちに自分が本来やりたいことを外にむかって表現ができるようになり、結果この地域での自分の役割がわかってきます。
近所の人たちもみんな、自分の役割を知った上でそれを職業として生きているから、物事を頼むにしても、このことならあの人に頼もうと、わかりやすくシンプルに人付き合いが繋がっていきます。この近所の人たちは「とにかく高橋さんなら、この野菜を美味しく調理してくれるだろう。」と、うちにいろんな食材を持って来ます。
そうやって私たちの役割を果たして、人と繋がっていくことで、この田舎で文化的な暮らしを送っていくことが私たちの幸せです。
インタビュー後半には、その日の朝に信博さんが知り合いの農家さんが育てているカブの間引きを手伝う代わりにもらって来たという、間引いたカブを使って裕子さんが中華饅頭を作る準備をしており、そこらじゅうにはとうもろこしのような新鮮なカブの甘い匂いが充満していました。
できたお饅頭は今度は近所の方や芳泉茶寮を訪れた方に食べてもらう、そうやって豊かな文化が広がっていくのだと感じることができたインタビューでした。
後半は高橋さん夫妻が暮らし、営む芳泉茶寮の建物、古民家を再生していくことで気づいた「理にかなった暮らし」についてお話ししていただきます。
芳泉茶寮(ほうせんさりょう)ホームページ
https://www.facebook.com/hosensaryou/
TEXT : 大山貴子
PHOTO : 原 直樹
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