【LIFESTYLE RENOVATION】インタビュー / 平井邸
あなたはリノベーションという言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
ブルックリンスタイル、北欧デザイン、モダンテイスト。
最近の見た目のかっこよさや雰囲気を追い求めるリノベーションは、この言葉自体をパッケージのように型に当てはめ、張りぼてのように無機質な存在にしてしまったと感じます。
本来リノベーションはラテン語で「再び新しい状態になる」という意味。単なる住宅の改修だけではなく、そこに住む人の暮らしや人生が豊かになり、新たに文化を築き始めることが本来あるべきリノベーションなのではとFIELDGARAGEでは考えています。そして住環境や自身の働き方に再び向き合うことで人生がアップデートされ、人は本当の意味での豊かな生活が送れるのではないでしょうか?
「LIFESTYLE RENOVATION」では、このように既存の形にとらわれない新しいスタイルの衣食住を実践している人たちにスポットライトをあて、彼らが暮らし方や働き方で何を大切にしているのかをインタビューすることで、人生のリノベーションとは何か?を考えるインタビューシリーズです。
第一回目は千葉県君津市でパーマカルチャーを取り入れた暮らしている平井さん一家にインタビュー。もともとは都会の生活への憧れから新宿御苑の近くの中古マンションを購入し住んでいた平井さん夫妻が、なぜ都会の暮らしをやめて今の暮らし方をすることにしたのか。
一級建築士として仕事をしながら永続可能な暮らしに挑戦する平井さんと、奥さんのちーちゃんにお話を伺いました。
家族:平井さん、ちーちゃん、大ちゃん
東京湾アクアラインを走り東京から2時間弱。道端に咲いている黄色い菜の花や暖かな日差しが柔らかく、先ほどまでビルが立ち並ぶ東京のど真ん中にいたとは思えないくらいのどかな田園風景が広がる千葉県道を更に奥に進むと、里山と段々畑の間に民家が見えきました。ここに平井さん夫婦が住んでいます。奥さんのちーちゃんと息子の大ちゃんが作ったサクサクのクッキーをいただきながら里山での田舎暮らしと、なぜここに移住することになったのかを伺ってきました。
働きすぎていた東京での暮らし
田舎に移住しようと思ったきっかけは?
千葉に移住する前は、子供もいなくお互いに激務だったので、効率を考えて職場近くの新宿御苑エリアに中古のマンションを購入し暮らしていました。その当時自分たちが購入できる範囲のものは安くて古い物件しかなかったのですが、コストを抑えて建てて高く貸すスタイルの日本の賃貸物件の質の悪さがもともと好きではなく、住むのであれば購入するという考えを持っていました。7年間住んだこの新宿御苑近くの家は、当時まだ目の前に高いビルが建っていなく、新宿御苑の緑が見え、都会の中に自然を感じられるのが気に入っていました。もともとは部屋が4パートに分かれていたのを、壁を取り払い壁に珪藻土を塗って、スッキリとしたオープンな部屋にしていました。
その当時から都市の生活のなかのリノベーションを行っていたのですね。
はい。でもこの購入した家で一生住むのかどうか、当時まだ迷いがあったので、最小限でできることをしていました。同時に建築家の宮脇檀さんが書いた都市での暮らしデザインといった住居系コラムをたくさん読み、都会は人が多いからこそいろんな機能がアウトソースされ、家が狭くても街を一つの家として生活しようという宮脇さんが考える都会での生活にあこがれ、いかに都会のど真ん中で暮らしを良くしていくかを考えていました。
当時は本当によく働いていました。職場と家が近いからという理由で、しまいには土曜日まで出勤していました。今振り返ってみるといい修行期間だったのかもしれませんが、最終的に社会不安症候群になってしまい体調が悪い日々が続いてしました。それでもういよいよこの生活はやばいなと思って、一級建築士をとって独立すると決めて勉強に励んでいました。そして2010年に合格。その次の年に東日本大震災がありました。
震災があり、都会の危険さを感じた
それで独立したんですね。
はい。実は退職したことと移住を決めたのは全くリンクしてなく、最終的に千葉に移住するきっかけとなったのは、震災でした。震災後にコンビニから物がなくなって、列をなして家に帰る人を見て、今まで当たり前に暮らしていた都会の生活がいかに贅沢なものだったのかを体感しました。
それと地震発生時はオフィスで仕事をしていたのですが、強い揺れを感じて逃げなきゃと思ったものの、周りの人たちがすぐに避難せずに机の下に隠れているのを見て、結局周りの行動に合わせてしまい揺れが収まるまで他の人たちと一緒にオフィスにいました。常に集団で動いていることしかしらないと、こういった緊急時でさえ逃げることよりも集団行動を優先してしまうことに気づき、組織の怖さを感じました。
今千葉の生活で実践しているパーマカルチャーを取り入れた自給自足の暮らしに対する憧れは、こんな震災後の混沌とした状態のなか、都会に住む人の行動原理に疑問を抱いたところから次第に強まっていきました。そんなある日、原さん(フィールドガレージ代表)とランチ中に、それとなくパーマカルチャーの話とともに、一緒にパーマカルチャーセンタージャパンが主催する講座にいかないかと誘ったところ興味を持ってくれて….。
それで原さん夫妻とともに4人で講座に通い始めて、パーマカルチャーとの関わりがスタートしました。
そしてパーマカルチャーの講座を受けている中で、今まで自分のテリトリーにいなかった都会の生活にとらわれないオルタナティブに暮らす人たちがこんなに居るんだということに気づいたのと、当時始めたフェイスブックでいろんな情報が流れてきているなかで、だんだんと田舎暮らしへ自分たちの意識がシフトしていきました。
浪費する都会の暮らしから、創り出す暮らしへ
ちーちゃん(奥さん)もずっと都会の暮らしをしていましたが、平井さんの決断をどう感じていましたか?
最初は新宿という東京の中心に家を購入して暮らしているのに、なんでわざわざ田舎暮らしがしたいのかと思っていました。でもパーマカルチャーの講座に通っているうちに自然の良さを再認識し、自然との関わりを感じながら、何もないところからいろんなものを作り出す喜びを知ってしまいました。
それでも最初は仕事が大好きだったし、仕事と両立できるのであれば移住してもいいかなとも思っていたけど、パーマカルチャーの講座で竹からお箸を作ったりしていくうちに作る楽しみや嬉しさを知り、浪費しかしない都会の暮らしに物足らなさを感じるようになっていました。カフェにいって、服を買って…。浪費しかしていないってことに気が付いたのですね。二人とも自然が好きになって、最終的に毎週末レンタカーしてどこか田舎に出かけているうちに、新宿に住んでいる意味があるのか?と気づきました。
自然を豊かにするために
子供が欲しいと思ったのも、パーマカルチャーの講座を受けたからでした。結婚して14年、子供が欲しいという気持ちがずっと片隅にありつつも、二人での生活に満足していたし、何より都会の暮らしでは日々のタスクで精一杯で考えるということさえしていない状態でした。
でもある時講座で仲良くしていた方が妊娠したという話を聞き、心の片隅にあった「子どもが欲しい」という単純な気持ちをもっと尊重していいのだなと考えるようになりました。またパーマカルチャーに行く前は、地球が悪化していく原因は人間にあるから、これ以上子孫を残す必要はないんじゃないか、と思っていました。
でもある日のレクチャーで、「人間が住む環境の方が海も山も豊かになる」という自然と人間との関わり合いに肯定的な話を聞いたときに、「産んでもいいんだな」という意識に変化しました。そして同時期に102歳の祖母がなくなり、お葬式にいとこの子供たち、祖母にとってひ孫がたくさん葬式に参列しているのを見て子孫繁栄の繋がりを感じ、「私もおばあちゃんの遺伝子を繋いでいきたい!」というのが最終的な決め手になりました。そしたらなんとすぐに妊娠したんです。
いろんなタイミングが全てマッチしていたのですね。
そうなんです。子供の妊娠が発覚した時は新宿で育てることも念頭に入れていたら、パパ(平井さん)から田舎に移住しないか?という話があり、パーマカルチャーを取り入れた暮らしを田舎でしながら子供を育てたいという気持ちが高まっていたので、なんの迷いもなく移住を決意しました。
充実感のある忙しさがある半農半建築士ライフ
最初は土いじりをするのが新鮮でワクワクしました。今は常に何かを作り続けている生活で、いつも何かに追われています。例えば近くに生えている蔓を取って来て、乾燥させてカゴを編んだり、乾燥して使えるようになるまで時間がかかっってしまうので、次の冬に使うための薪を今から貯蓄したり。常に何かをしています。ずっとやることに追われて忙しいけど、会社で勤めていた時のようなストレスは全くないです。14年間のオフィスでデスクワークをしてからの畑仕事は、始めた当初は毎日腰痛がひどかったけど、だんだん慣れてきて体力がついてきました。1日の多くを外の時間を過ごすことで健康的にもなりましたし。ここでの暮らしは毎日時間が足らないと思うほど充実感があります。
住居のリノベーションは完成する前の打ち合わせをしているときのほうがワクワクすることが多く、仕上がってしまうとそこで充実感が満たされ物足らなくなってしまいます。
常に何かを作り続けている今の生活スタイルは、ずっとリノベーションをし続けている状態。完成されることのない日々の生活環境で作業し続けて、リノベーションをしているという行為が暮らしの一部になってしまいました。その時の身の丈に合わせて可変的に、ここでの生活でいろんなものを作り続けていきたいです。
TEXT:大山貴子
PHOTO CAPTION:YUKO
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